石勒 五胡十六国時代の黒き英雄王 第三部「石勒の河北争奪戦」⑤ 314年 石勒、王浚襲撃の下準備を完了

石勒

こんにちは。

石勒幽州を中心に勢力をはっていた王浚を打倒しようと思いますが、どのようなスタンスであたっていくか、なかなか方針が決まりませんでした。

そこで、張賓に相談したところ、驕り高ぶる王浚に対し下手に出て、信じ込ませたほうがよいという意見を採用しました。王子春を使者として王浚の元に向かわせ、へりくだりMAXの手紙を送り、さらに王子春のべしゃりで王浚様にぜひとも味方したい、ということを信じ込ませます。

さらに、王浚の配下が石勒に味方したいと申し出てきたのを、王浚にチクリ、さらに王浚の信頼を得ることに成功します。

このように、「自分はあなたの味方ですよ」という仕込みを行い、王浚攻略の謀略を進めていきます。

 

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王浚からの使者をだます

さて、王浚のもとに使者に出ていた王子春たちは、王浚からの返礼の使者を引き連れて襄国へ帰ってきました。

石勒は精鋭の兵を隠し、疲れて弱々しい兵を王府内に並べて、王浚からの使者に見せるようにしました。

そして北面して(目上の人間に対するようにして)、王浚の使者に対面し、書を受け取りました。

また、王浚はこのとき石勒に麈尾(払子【ほっす】)を遣わしました。石勒は演技でそれを壁にかけて、朝と夕にこれを拝み、

「私、今は王公(王浚)会うことができませんが、この払子を崇め見るところができれば、王公と会うのと一緒であります~。」

と言い、嘘くさいですが、王浚へのへりくだり活動をします。

また、董肇を王浚の元に遣わし、表を奉り、「3月中旬を目安に幽州に直接お伺いをし、王浚様に尊号を捧げ奉る」的なことを伝えさせます。

さらに、王浚配下の酷吏・棗嵩に文書を送り、并州牧と広平公の官位を求めます。

王浚主従へ、おべっか使いまくり、逆らう気がないことを信じ込ませます。

王子春、石勒へ王浚勢力の状況を報告する

さて、石勒は、王浚のところへ使者へ行っていた王子春に王浚の政治はどのようであったかを聞きます。

王子春は答えます。

「幽州は、去る年洪水に見舞われ、人々は一粒の食料も無いという状況になりましたが、王浚は粟百万という食料を保管しておきながら、それを民衆にほどこすことをしませんでした。

また、その刑法や政治は過酷で、税金や労役の負担も大変なものになっています。内では忠義の臣、賢才の臣などが皆離職し、外では夷狄が叛乱を起こしています。人々は皆、王浚はまもなく滅亡するだろうとささやいていますが、王浚本人だけは意気が揚がり、落ち着いた様子で(自らの勢力の衰えに)まったく恐れを抱いておりません。

自分の朝廷を作り、百官を並べ、自らを漢の高祖(劉邦)、魏の武帝(曹操)さえも比べるに足らないなどと言っております。」

これを聞いた石勒は、机をたたきながら大笑いし、

「これはマジで王彭祖(王浚)を捕らえることができそうだな」

と言います。

王浚の使者、王浚に石勒の状況を報告する

一方、石勒の元に行っていた王浚の使者もに戻り王浚に報告します。

「石勒の勢力は弱っちい限りでしたよ。あいつの王浚様への誠心誠意は相当強いですわ。」

これを聞いた王浚は大喜びし、ますます怠けて石勒に対する備えをしなくなりました。

それぞれの勢力の使者の質の差も相当なものがあったと感じさせます。

まあ、前述の王子春の話にあったように、優秀な人材の多くは王浚の元からすでに離れていたのでしょう。

石勒の気がかりを張賓が解決

今までの仕込みで、自分が王浚の味方で、尊敬さえしているということを王浚に信じ込ませることに成功し、あとは王浚を襲撃するだけという状況までに持っていった石勒ですが、計略を発動するにはまだ迷いがありました。

この石勒の様子を見ていた張賓は言います。

「王浚を急襲するには、その不意を突くのが一番です。今、軍の準備が出来ているのに、日を経て動かれないのは、劉琨や鮮卑・烏桓どもが後ろを襲ってくるのではないかと心配されているからですよね?」

石勒は、「その通りだ。どうすればよいだろう?」と言います。

張賓は、

「あやつらの智勇は将軍(石勒)には遠く及びません。将軍が遠征を行ってもやつらは間違いなく動かないでしょう。それどころかやつらは、将軍がこれから軍を千里移動させて幽州に取ろうとしていることなど思ってもいないでしょう。軽軍で行ってすぐ軍を返せば、二十日もかからず戻ってこれます。かりにやつらに攻撃の気持ちがあったとしても、やつらが軍議をして軍を出すころには我軍はすでに帰還できているでしょう。

劉琨と王浚は同じ晋の臣と言っても、実は仇敵同士です。劉琨に書を送り、人質を差し出し和を請えば、劉琨は間違いなく我らの服従を喜び、我らが王浚を滅ぼすのを快事とさえ思い、王浚を救おうとも我らを襲おうともしないでしょう。

兵は神速を貴ぶ、と言います。

時間を無駄にしてはいけません。」

これを聞いた石勒は言います。

「わしが悩んでいたことなど、右侯(張賓)にはお見通しであったわ。わしはもう悩まぬ!」

と相変わらずの、右侯LOVE&全幅の信頼によって王浚襲撃計画をついに発動します。

石勒と王浚の雌雄を決するときが来ます。

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【参考文献】
三崎良章『五胡十六国、中国史上の民族大移動』【新訂版】(東方書店、2012年10月)

川勝義雄『魏晋南北朝(講談社学術文庫)』(講談社、2003年5月)
『晋書』『資治通鑑』


五胡十六国: 中国史上の民族大移動〔新訂版〕(東方選書43)


魏晋南北朝 (講談社学術文庫)


 

 

 

 

 

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