自分が好きな中国史をテーマにした作品をいくつか挙げてみる(小説編)

小説

こんにちは。

以前、中国史をテーマにした漫画をピックアップしてみましたが、今回は小説をピックアップしてみようと思います。

基本的には、大御所や有名どころの作品が並びました。

しかしどれもおもしろかったのは間違いありません。

以下、作品を挙げていきます。(多少のネタバレがあります。)

北方謙三

大水滸伝シリーズ

まず上げるのは、北方謙三先生「大水滸伝シリーズ」です。

北宋末の腐敗した世を正すために梁山泊に集った百八の魔星の活躍を描いた中国史上の屈指の物語「水滸伝」の話をテーマにして、登場人物は、もとの水滸伝の設定を残しつつも、オリジナルキャラに仕立て、その人物たちがもとの水滸伝の話に負けず劣らず(いやもとの水滸伝の話より)大活躍し、濃ゆいキャラになっている大変はまり込む作品です。

3部作になっており、

水滸伝(文庫で全19巻)

楊令伝(文庫で全15巻)

岳飛伝(文庫で全17巻)

と、大変ボリュームがある巻数になっております。

個人的な感想ですが、

「水滸伝」は、梁山泊に集う様々な英雄・豪傑・様々な人物たちの生き様を描きつつ、強大な存在(宋)に対する叛逆と、その叛逆のための組織作り、そして滅びの美学が描かれております。

「楊令伝」は、主人公・楊令をはじめ前作での梁山泊滅亡を生き延びた人々が再結集して、滅びからの再構築&国創りの様子が描かれ、とくに小さな領土しかもたない国が交易をテーマにして、いかに強力な国力を手に入れていく様が描かれています。主人公・楊令の英雄的な強さとかっこよさは凄まじいです。

そして「岳飛伝」は、タイトル通り抗金戰爭の英雄・岳飛が主人公なのですが、今まで世の中で描かれてきたものとは一味違った抗金戰爭と岳飛の生涯が描かれます。また、梁山泊、南宋、金、西遼、西夏、日本、東南アジアエリアなどアジア圏の様々な国々の興亡や営みを描き、楊令伝よりさらにグローバルな世の中、交易をストーリーに絡め描かれています。

あと、「水滸伝」時に生まれた英傑たちの子供が、「楊令伝」「岳飛伝」と進むにつれて、成長し大人になり、その時代の主力になり、志(こころざし)繋いでいくのも見どころの一つであります。

シリーズすべてがおもしろいのは間違いありませんが、個人的には「楊令伝」の国造りの進め方やその営みがおもしろかったです。そして、人事だけではどうしようもない事があるというのも、この作品には描かれております。

どのシリーズも読みながら血湧き肉躍るのは間違いありません。

全シリーズで、51巻になりますが、読み始めると、大げさでなく止まらなくなりあっという間に読み終わってしまうシリーズです。




楊家将

血涙

この2つもシリーズになります。

楊家将という、北宋初期の英雄・楊業とその一族の物語を描く「楊家将演義」という中国の物語を元にしています。

北宋初期の時代、当時精強を誇った北方の遼と北宋の、燕雲十六州(北京&大同周辺のエリア)を巡る争奪戦を描いた話です。

楊業は、伝説的な戦の強さを誇る武人で、その息子たちも父親譲りの武をそれぞれ持ち合わせていました。

そして、遼にも「白き狼」と呼ばれる名将・耶律休哥がおり、楊家と白熱の戦いを繰り広げるのです。親子二代に渡る楊家と遼の戦いは大変興奮する内容です。

「騎馬隊での突破」、「坂落とし」、「野戦料理」など北方作品に出てくる魅力的な描写も余すところなく描かれております。

このシリーズも、読みながら血湧き肉躍るシリーズです。



三国志

三国志演義の話を元にしつつも、人物によっては独特のキャラ付けがされており、横山光輝三国志などに慣れしたんだ人にとっては、かなり新鮮な三国志が楽しめる作品です。

呂布と張飛がめっちゃかっこよく描かれており、この部分だけで読む価値ありと思います。

逆に、呉は少し嫌いになるかもしれません・・・(周瑜はかなりかっこよく描かれています。)

間違いなく血湧き肉躍ります。


史記 武帝紀

タイトルとおり、司馬遷が書いた「史記」に出てくる前漢の武帝まわりを描いた作品です。

衛青と霍去病の対匈奴戦、張騫の西域紀行、悲劇の武将・李陵と蘇武、晩年の武帝周辺の様々な権力争い、宮刑という強烈な刑を受けながらも父親の意思を引き継ぎ「史記」を完成させた司馬遷など、前漢・武帝期の出来事・人物を迫力ある内容で描いています。

衛青と霍去病の戦術・戦闘の凄まじさは、自分が昔から持っていたイメージ以上にかっこよかったですし、漢サイドだけでなく、匈奴サイドの視点からも、漢vs匈奴の戦いが描かれていますので、そのへんも魅力の一つです。

上記、戰爭の部分も興奮しまくりでおもしろいですが、個人的には、蘇武がバイカル湖畔で行う「ゆるくないキャンプ生活(サバイバルとも言う)」の様子が、大変おもしろかったです。生き残り生活していくための創意工夫や実行力が素晴らしく、こいつを一文官にしておいた漢の朝廷は節穴だなとちょっと思ってしまいました。蘇武のガチキャンは昨今のキャンプブームの先駆けかもしれません(それはない)

おっと、言い忘れていました。

この作品も血湧き肉躍るのです。


浅田次郎

蒼穹の昴シリーズ

このシリーズも中国史をテーマにした小説の最高峰と言ってよいでしょう。


時代は、満州族の愛新覚羅氏が建てた清王朝がそろそろ終わりに近づく19世紀後半です。

倒れゆく清王朝を一人で支える西太后と、その近くに仕えることになる主人公・春児(チュンル)を中心に物語は進んで行きます。

清王朝はこの時代、列強から侵食されつつありましたが、その危機の時代を彩る人物たち、西太后、光緒帝、李鴻章、袁世凱、恭親王、醇親王などが、浅田先生の手でとてつもなく魅力的に描かれています。私はこの小説を読んで以来、清朝が誇るスーパーじじい李鴻章のファンになっています。

また、かつて西太后は、則天武后と並ぶ中国史上最大の悪女として評価されることが多かったのですが、この物語の西太后は、飽食、観劇好きなどの散財する姿の裏に、まだ幼い光緒帝に変わり滅びゆく清王朝をその卓抜した政治手腕で支えているという顔をもち、実は優秀かつ、国と民のことを誰よりも思っている慈悲深い人物として描かれています。(激しく苛烈な部分も同居している)

この西太后の描き方は、はじめて読んだとき、ほんとに目からウロコでした。

小説全体で、視点がいろいろ変わり、手紙や官報、新聞記事などを読ませることにより物語が進んでいくなど、まったく飽きることなく話が進んでいきます。

そして、浅田先生が描く、北京や紫禁城の美しさやリアリティがとても凄いです。

浅田先生、何かのインタビューで「蒼穹の昴」を書いたときは北京行ったことがなかったというようなことを答えていたのを読んだことがあり、見たことがない状態でよくここまでの描写ができるなと思った記憶があります。

「蒼穹の昴」は、そのものもめちゃくちゃおもしろい小説ですが、シリーズとしてそのあと続いていきます。

珍妃の井戸


中原の虹


マンチュリアン・リポート


天子蒙塵


と物語は進んで行きますが、読み進めるごとにおもしろくなっています。

私は最後の「天子蒙塵」だけは未読なので早く読みたいのですが、文庫出るまで待とうと思ってたら、何年経っても出やしねえぜ(泣)【2021年5月13日現在】

宮城谷昌光

春秋戦国時代を中心として物語を書かれている宮城谷昌光先生の作品では、2作品挙げます。

楽毅

主人公はもちろん楽毅ですが、この作品の楽毅は、趙国の前に風前の灯状態の中山国の将軍として登場します。

そして、その楽毅がまず対峙するのは、趙を強国にまで引き上げた武霊王です。「胡服騎射」で有名な王様ですね。

そして、中山国が趙に滅びた後は燕に迎えられ、驕り高ぶる斉に合従軍を率いて侵攻していきます。

諸葛孔明が尊敬しまくり、春秋戦国時代でも最高クラスの名将である楽毅の物語はやはりおもしろかったです。


孟嘗君

孟嘗君は、食客三千人や、「鶏鳴狗盗」の故事成語などで有名な戦国四君の一人です。

中国の戦国時代のスタークラスの有名人ですね。

その孟嘗君の物語です。

この物語では孟嘗君ともう一人主人公がいます。孟嘗君の育ての親である快男児・風洪です(というか前半は完全に風洪のほうがメインかな)。彼はのちに商人となり「白圭」と改名します。「白圭」は、史記・貨殖列伝に出てくる中国史上の「伝説の商人」(伝説のポケモン的なのり)です。この白圭と孟嘗君を義親子としているところが、この小説の大変おもしろいところだと思います。

そして、斉と魏の2国を中心としながら戦国時代を描き、孫臏などの有名人も大きくストーリーに絡んできますので、戦国時代の小説を楽しみたいと思う人には、やはり大いにオススメできる作品だと思います。


小前亮

多くの中国史関係の小説を書かれている小前先生ですが、

苻堅と王猛: 不世出の名君と臥竜の軍師

蒼き狼の血脈

がおすすめしたい小説です。

苻堅と王猛: 不世出の名君と臥竜の軍師

このブログ内でも、よく作品表示をしていますが、五胡十六国時代の英主・苻堅と彼を支え前秦を華北統一に導く男・王猛を描いた小説です。

メジャーな出版社から出ている作品では、五胡十六国時代を描いたほとんど唯一の作品なのではないかと思われます。

桓温の第一次北伐により焦土化した関中で、「中国を統一しすべての民族を一つにする」と苻堅が誓うところから物語がはじまります。

そして、王猛と出会い二人で華北統一目指して行きますが、この時代を彩った武将たち、慕容垂・慕容徳・鄧 羌・苻融・姚襄・姚萇・桓温・謝安・謝玄・劉牢之・桓石虔も次々と登場してきますし、「枋頭の戦い」、「前秦の前燕侵攻」などのこの時代の重要な出来事や前秦の華北統一への過程についての話、そして、淝水の戦い」と、この時代を網羅できる内容ですので、五胡十六国時代(とくに360年代~380年代ころまで)を知りたいという人にもおすすめの小説だと思います。

私もこれを読んだのは五胡十六国時代にのめり込む前でしたので、ある程度知識が増えた今、もう1回読み返してみたい作品であります。


蒼き狼の血脈

ジンギスカンの長男ジュチの息子・バトゥの物語です。

イエケ・モンゴル・ウルス(モンゴル帝国)がジンギスカンの死後、さらに膨張していく過程で、その征西の軍を率いて、今のロシア、東欧、中欧まで軍を進めた「セイン・カン(賢明なる王)」バトゥを描きます。

遠征とともに、オゴタイ亡きあとのグユク、モンケと続くイエケ・モンゴル・ウルスの後継者争いとバトゥがどう絡んでいくかも描かれており、なかなか重厚感があるストーリーだと思います。

そして、バトゥ軍にはジンギスカンの四駿四狗の一人スブテイも従軍しており、その名将ぶりも描かれていたりして、隠れスブテイファンの私は嬉しかったです。


まだいくつか挙げたい作品はありませんが、それなりの数になったので、今日はここまでにしようと思います。

そのうち、追加するかもしれません。

とりあえず今日挙げた作品は全部また読み返してみたいと思った作品です。

中国史をテーマとしたおすすめ漫画はこちら

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