この歴史漫画がおもしろい! 「天上恋歌 ~金の皇女と火の薬師~」 金国の皇女が宋の花火職人に恋をする

天上恋歌 ~金の皇女と火の薬師~

こんにちは。

最近読んでおもしろかった歴史漫画シリーズいきます。

青木朋「天上恋歌 ~金の皇女と火の薬師~」 (ボニータコミックス)

です。


天上恋歌~金の皇女と火の薬師~【電子特別版】 1 (ボニータ・コミックス)

中国史系の漫画は、たくさんありそうで実はあまりない(個人的感想)ので、この漫画のことを知ってすぐ購入しました。

しかも北宋が舞台ということで、自分的にはかなり新鮮感がある漫画でした。

ボニータコミックスは少女漫画のジャンルになるらしく、本屋の少女漫画の棚の前をおじさんがうろちょろする勇気はなく、今回はアマゾンで購入しました。(蛇足情報)

時代は北宋末期にして金の勃興期

少し時代背景のことを書きます。

物語がはじまるのは、宋の宣和五年ということですので、西暦1123年になります。

宋は「風流天子」と呼ばれた徽宗の時代です。

宋は趙匡胤(太祖)が960年に建国し、2代目太宗の時代に五代十国の残りカス北漢を滅ぼし天下を統一します。(北京と大同周辺の燕雲十六州は契丹族の遼が支配)

そこから150年近くたち、宋(北宋)はそろそろ滅亡のときを迎えようとしていました。(漫画内では、きらびやかで発展した都や文化が爛熟という状態で、おそらく当時の人の誰も近い未来滅亡することなど想像だにしていない)

一方、金という国は女真族の王朝で、女真族の部族長・完顔阿骨打(わんやんあぐだ)が、物語がはじまる8年前の1115年に帝位につき建国、長年に渡り女真族を過酷な政治で迫害し続けた契丹族の遼と独立戦争とも言える戦いを続けていました。

完顔阿骨打は建国後まもなく黄龍府という女真族が住むエリアの主要都市を陥落させ、遼の天祚帝が70万の大軍で親征してきたのを混同江畔で大破、1122年(物語の1年前)には遼の中京を攻め落としました。その最強の鉄騎兵によって金は向かうところ敵なしの勃興期でした。

宋は前述の燕雲十六州を建国期から異民族王朝である遼に支配されており、これを漢族王朝である自分たちの手に奪還することが悲願でもありました。

そして、金の攻撃によって遼がボコボコにされはじめ、燕雲十六州の奪回にまたとないチャンスが巡ってきました。

宋は金と同盟を結び一緒に遼をボコリ、燕雲十六州を漢族の手に取り戻そうとします。

物語はそのような宋と金が提携し始めたというときに、友好の施設団の一人(というか主賓)として金の皇女・アイラが宋の都・開封を訪れるところからはじまります。


五代と宋の興亡 (講談社学術文庫)


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ストーリー

宋の都・開封に着いた完顔阿骨打の娘にして金国の皇女であるアイラは、開封で宋の皇帝みずからが皇宮の正門で出迎えるという歓迎を受けます。

その歓迎の式典の最中に突然アイラがたまたまその場にいた花火職人の白凛之に抱きつくという事案が発生します。

実はアイラたち金の一行は開封に向かう道中に遼の刺客に襲われ、アイラは一緒に連れてきたシロハヤブサ(海東青)のエルを救うために川に落ちてしまいます。

川に流されていたアイラとエルを助けたのが白凛之で、アイラはそのとき白凛之に一目惚れしてしまったのでした。

ただ、国同士の式典のときに大宋皇帝や宋のエスコート役の第九皇子・康王(実はアイラとの縁組が協議されている)をほったらかしにして、花火職人に抱きついてしまったので、さあ大変です。

そのことも原因の一つとなり、アイラや金の一行は開封滞在中にさまざまな「トラブル」に巻き込まれていきます。

そのようないろいろな出来事が起こる中、新興の国とはいえ一国の皇女であるアイラと、一介の花火職人・白凛之との身分違いの恋(1巻までだとアイラの一方的な恋心であるが)は成就するのかなどが、ストーリーの骨子になります。

登場人物たちがとても魅力的です

「天上恋歌 ~金の皇女と火の薬師~」に登場する人物たちは、実在の人物と架空の人物混ざっていると思いますが、どの人物も魅力的に描かれています。

主人公のアイラは、天真爛漫かつ好奇心旺盛で行動力があり、その素直さゆえに急に周囲の人が驚くような行動をしてしまったりと、なにか応援したくなるような女の子です。蛮族の娘だから熊みたいな女だろうと噂していた宋の人々を唸らせる美貌の持ち主でもあり、英傑・完顔阿骨打の娘だけあって、武術もすごいという裏(?)設定付きです。

アイラの一目惚れの相手白凛之は、朝廷の火薬工房の花火職人で、その腕前は天才的ということです。「花火」について以外にもさまざまな知識をもっており、望む望まざるとにかかわらず、アイラのピンチを救ってくれます。

そして、金の一行にはアイラの兄ウジュもいます。ウジュは中国史上でもけっこう有名な武将です。完顔阿骨打の第4子でのちに金の軍事の象徴と言われるまでの存在になります。どんな戦いを経ていくかはなんとなくネタバレになりそうなのであえて書きませんが。

宋側でいくと、皇帝陛下(徽宗)が1話から登場します。中国史的にみると、政治を佞臣に丸投げして芸術の世界にのめり込み(徽宗自身の芸術家としての才能は中国美術史上に残るほど傑出していた)、国を傾けたバカ殿のイメージなのですが、この漫画ではキラキラのイケメンオヤジで柔らかな物腰ながら皇帝としての威厳を備えた人物として描かれています(1巻での描写)。どうしてもイメージ先行で見てしまう後の世の私たちですが、当時の人々から見ると、実際は漫画に描かれているように見えていたのでしょう。

その徽宗の第九子の康王ですが、こいつもイケメンに描かれています。そして性格もよさそうに見せかけて実は裏表が相当あるキャラ(1巻の時点では)です。康王は、中国史上的にはある有名なやんごとなきお方です(のちの話)。ただそれを知って読むと、逆にストーリーをより楽しめるのではないかと個人的には思います。前述、ウジュとの絡みがあるのかなども深読みしてしまいます。げっへっへ・・

1巻では康王の妹、儀福帝妃・円珠という人物も登場します。のっけからアイラに敵意をむき出しにしてますが、2巻以降もどう話に絡んでくるか楽しみです。

風景や衣装の描写も魅力

漫画で出てくる、宋の都・開封や、宋、金、双方の皇族たちの衣装なども細かく美しく描かれており、それもこの漫画の魅力の一つだと思います。

宮中での式典でアイラが着ていた金の皇女の正装や髪型など、詳細に描かれていますので、その部分だけでも一見の価値ありです。

そして、個人的には、開封の都の宮殿あたりを風景を鳥瞰で描いた描写が最高でした。他の中国の都市も描いてほしいと思ってしまいました。

歴史の流れを含めて、今後の展開が楽しみ

コミックスでは2020年9月現在では1巻が出ている状態ですが、2巻以降も非常に楽しみです。

アイラと白凛之の恋の行方も気になりますが、アイラと縁談の話が上がっているという康王との関係性がどうなるのかや、康王の妹・円珠との関係、さらに言えば、アイラたちが開封を訪れたあとの数年間で劇的に変わっていく宋と金の関係性が今後どうストーリーに絡んで来るかなど、楽しみな要素がたくさんあります。

早く先が読みたいですね。


 

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