こんにちは。
五胡十六国時代の英傑の一人、北涼の沮渠蒙遜を描くこのシリーズですが、前回の河西回廊の説明に続き、まだ本題に入れません。
今回は、沮渠蒙遜登場前の河西回廊の歴史について、簡単に書きたいと思います。
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西晋時代までの河西回廊
河西回廊は、その名前のとおり、黄河が北流している部分より西にあり、洛陽のある中原や、長安のある関中と違い中国史のメインエリアから離れた場所にあります。
河西回廊のエリアが歴史上注目を集めはじめるのは、前漢の武帝の時期でしょうか。
霍去病が河西回廊で匈奴を撃破
前漢武帝以前は、匈奴が強大になり、項羽との戦いに勝利し中国を統一した劉邦が、匈奴の大軍に包囲され命からがら逃げるなど、前漢は防戦一方になっていました。
武帝は即位すると匈奴との戦いを決意し、衛青や霍去病という優れた将軍を派遣し、匈奴を撃破していきます。
河西回廊も匈奴の勢力下にありましたが、霍去病がこのエリアに残る匈奴勢力をたたきつぶすために派遣され、河西回廊北の砂漠地帯を西進し、居延沢という酒泉と張掖の間に流れる弱水という川が流れ込む湖から、一気に南進し、祁連山脈北麓に集まっていた匈奴を急襲し大破するという大戦果を挙げ、匈奴の渾邪王が前漢に降伏、前漢は河西回廊に武威・張掖・酒泉・敦煌の四郡を置き河西回廊を支配下にいれます。
これにより、シルクロードが開通されたとも言われ、河西回廊はシルクロード・オアシスの道の一部として、中国と西域などを結ぶ重要ルートとして存在していきます。
五胡十六国時代の河西回廊
その後、後漢、三国時代を経て、西晋の時代になり、西晋の武帝(司馬炎)が亡くなると、皇族どもが相争う八王の乱が起こり、その軍事力として使われた匈奴、羯、鮮卑、氐、羌、などの五胡が自立しはじめます。そして匈奴の劉淵が独立、永嘉の乱が勃発し、中原はさらなる混乱の渦に巻き込まれていきます。
張軌の前涼建国
そのようなときに、河西回廊では、漢人名族の張軌が姑臧に駐屯していました。そして、中原の混乱により多くの流民が河西回廊に逃げてきていました。
張軌はこのような状況の中で、涼州エリアをまとめて、半独立状態になっていました。
そして、301年に西晋の臣下としての立場を取りながら、涼州刺史・護羌校尉に就任します。
これが五胡十六国の国の一つ前涼の事実上の建国になります。(諸説あり)
張軌はこのあと、東は金城(今の蘭州)から、西は敦煌までの河西回廊を包括するエリアを支配します。
前涼の70年以上に及ぶ河西回廊支配
前涼はこのあとも、前趙や後趙などの中原の勢力と戦ったり、称蕃したりと、戦闘・外交織り交ぜるやりとりを、複雑にやり合いながら、河西回廊に勢力を保ちます。張駿の時代の345年にはタリム盆地東部まで領土を広げ、前涼の最盛期を築きます。
結局376年に前秦によって滅ぼされるまで76年に渡り存続し五胡十六国時代の「十六国」の中で最も長生きの国になります。
五胡十六国で70年以上続くということは、他の時代では「この国1000年続いたよ」、と豪語できるほどの長さです。
淝水の戦い後から沮渠蒙遜登場前の河西回廊
376年に前涼が滅亡してから、河西回廊は前秦の支配下にあったのですが、383年の淝水の戦いで前秦が大敗北をくらってしまうと、河西回廊の勢力図にも大きな変化が訪れます。
呂光の後涼建国
前秦の将軍の呂光は、淝水の戦いがあった383年から苻堅から命じられ、西域遠征へ出陣します。
亀茲まで制圧するなど西域で暴れるだけ暴れたあと、淝水の戦いでの前秦の敗北を知り、東へ戻り姑臧を本拠にして自立します。
呂光が386年10月に大安と建元して酒泉公を名乗った時点が後涼の建国とされ、河西回廊はこのあとしばらくは後涼が支配します。
ただこの呂光、将軍としては優秀だったのでしょうが、君主としてはポンコツだったようで、国内で反乱が続発し、後涼支配下の河西回廊内では様々な争いが起こります。
そして沮渠蒙遜がいよいよ登場!
390年代にかけての後涼国内の混乱の中で、いよいよ沮渠蒙遜が登場しますが、そのあたりの話は次回書きます。
沮渠蒙遜が歴史の舞台に躍り出る390年代後半から河西回廊は、諸国が相争う戦国乱世へと突入していきます。
前涼時代もそうだったように、河西回廊の勢力は、河西回廊内だけでなく、関中や隴西を勢力下にしている国とも争わなくてはならないということで、様々なかけひきが繰り広げられていく状況を沮渠蒙遜がどのように(ダークに)生きていくのかも楽しみです。
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川勝義雄『魏晋南北朝(講談社学術文庫)』(講談社、2003年5月)
『晋書』『資治通鑑』
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