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349年に関中エリアで勃発した高力たちを主力とした「梁犢の乱」は、関中から洛陽へとまさに「破竹の勢い」で進んで行き、成皋関(三国志の虎牢関)をも超え華北平原まで進出してきます。
後趙の迎撃軍も次々と粉砕されてしまいますが、姚弋仲と蒲洪を合流させた燕王・石斌(せきひん)率いる討伐軍が梁犢の反乱軍を打ち破り、ようやく「梁犢の乱」は鎮圧されます。
「梁犢の乱」は、相当な規模の反乱でしたが、後趙国内の混乱はむしろこれからが本番です。
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石虎の後をにらんだ、後趙朝廷内の権力闘争
349年4月になると、石虎の病はますます重くなります。
そこで、自分の死後を見据え、国内の役職を再編します。
すなわち、
彭城王・石遵を大將軍に任命し関中へ赴任させ、燕王石斌を丞相、錄尚書事に任命し、張豺を鎭衞大將軍、領軍將軍、吏部尚書に任命させ、まだ幼い石世を補佐させようとします。
ところが、
石虎の皇后で石世の母親である、劉皇后が石斌が補政するということが、息子の石世にとって甚だ不利になる(皇帝の位を奪われる)と考え、張豺と一緒に石斌を除こうと画策します。
劉皇后は、前趙の君主・劉曜の娘で、幼いときに前趙が滅び、そのときに張豺に捕らえられます。大変美しい容姿であったことから石虎に献上されその寵愛を受け、石世を生んでいました。
まあ、石虎はロリコンでもあったと思われます。
そのような張豺との関係性もあり、劉皇后は張豺を頼ります。
張豺も、劉皇后との関係性を活かし、石世を皇太子にし、すでに老いて病がちであった石虎が死んだあと、自分が石世の後見として、後趙の権力を握るという野望を持っていましたので、邪魔者の石氏を排除していくことに異論はありません。
石斌をはめる
石斌はこのとき襄國に駐屯していましたので、劉皇后と張豺は偽の使者を石斌に送り、
「主上(石虎)の病はだんだん回復していっております。王(石斌)は猟でもしながら、もうしばらく襄國にとどまっておられてもよろしいですよ。」
と伝えます。
このバカな石斌は猟が大好きでしかも酒好きであったので、疑うこともなく猟と酒をほしいままに楽しんでしまいます。
この石斌の行動を見て、劉皇后と張豺は偽の詔勅を作り、石斌は「忠孝の心がない者である」と断じ、石斌の官職を剥奪し、鄴の自宅に謹慎を命じます。そして、張豺の弟の張勇に「龍騰」という強兵500人を率いさせ石斌の邸宅を囲ませます。
石遵を関中に去らせ、石斌を殺す
また、関中の赴任を命じられた石遵も前任の地幽州から関中に赴く途中、鄴に立ち寄り、石虎に挨拶をしようとしますが、劉皇后と張豺にはばまれ、泣きながら去りました。
その後、すでに軟禁していた石斌も、劉皇后と張豺が偽の詔勅を再度出し、張勇によって殺されてしまいます。
劉皇后と張豺体制固まっていく
こうして、目下の邪魔者を始末した劉皇后と張豺は、
さらに偽の詔勅を出し、張豺を太保、都督中外諸軍、錄尚書事に任命し、前漢の霍光故事のように次の皇帝石世を補佐する体制を固めます。
あとは、石虎の死を待つだけになりました。
大魔王・石虎死す
そして、349年4月、当時の中華の人間にとって最凶の災厄であった大魔王・石虎は没しました。
石世は予定通り後趙の皇帝として即位し、劉皇后は皇太后になり、臨朝稱制をはじめます。
劉太后は、張豺を丞相に任命しようとしますが、張豺は辞退し、彭城王・石遵と義陽王・石鑒を左右の丞相にして彼らの気持ちをおさめようとし、劉大后もこれに従います。
正直たいして意味はない行動だと思われます。
張豺、李農を抹殺しようとする
張豺はさらに自分の権力を固めるために、太尉の張舉と組み、後趙の実力者の一人である李農を誅殺しようと企みます。
ただ、張舉は前から李農に好印象をもっていましたので、この企みを李農に密かに教えます。
李農は、廣宗に逃げ、乞活という漢人の流民武装集団(五胡十六国時代のはじめから劉裕の宋建国まで100年にわたりさまざまな勢力にしたがいながら活動した)を率いて上白という地に立てこもります。
そのために、劉太后は張舉に上白を囲ませます。
勇者の姿をした魔王・冉閔が表舞台に
このように、石虎の死前後から、目論見通り後趙朝廷の権力を固めていった劉太后と張豺ですが、石閔(冉閔)という核弾頭がまだ野に放たれているままになっていることにまで手が回っていません。
この石閔(冉閔)が後趙国の権力を握るためのキープレヤーになり、超強力な諸刃の剣になっていきます。
五胡十六国時代でも最大にして最悪の、石虎死後の後趙の内乱の幕が開けます。
【参考文献】
三崎良章『五胡十六国、中国史上の民族大移動』【新訂版】(東方書店、2012年10月)
川勝義雄『魏晋南北朝(講談社学術文庫)』(講談社、2003年5月)
『晋書』『資治通鑑』
五胡十六国: 中国史上の民族大移動〔新訂版〕(東方選書43)
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