五胡十六国時代 前燕の落日⑯ 四代目慕容暐 ~「枋頭の戦い」その6 慕容垂の出陣~

歴史

こんにちは。

桓温率いる東晋軍が、前燕の首都・鄴からさほど遠くない枋頭の地に着陣し、前燕の朝廷では遷都も辞さないほどの大混乱に陥ります。

そのタイミングで、慕容儁、慕容恪の弟、慕容垂が皇帝・慕容暐に自分を迎撃の司令官に抜擢するように奏上し、受け入れられます。

慕容垂はそれまでの、迎撃軍の総司令官であった慕容臧に代わり、「使持節・南討大都督」の肩書を受け、桓温率いる東晋軍との戦いに挑みます。

今は亡き兄慕容恪と並び、当時最高最強の将軍であった桓温に慕容垂が立ち向かい、キングダム風に言えば「慕容垂の名前を中華が知った」戦いともなる「枋頭の戦い」の本番がこれからはじまります。

※慕容垂の名は「枋頭の戦い」以前もそこそこは知られてたとは思います。

桓温の枋頭進出までの進軍路

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慕容垂の戦術プラン

さて、いざ桓温を迎え撃つにしての慕容垂のプランですが、以下のようなものであったのではないかと思われます。

●正面からの全面衝突はこれまでの戦い敗北しているように桓温相手では分が悪いので行わない。

●黄河を超えた枋頭くんだりまで出張ってきた東晋軍の兵站線が細くなっていることは情報として掴んでいたと思われるので、兵站線をつき戦争継続が困難になるようにする

●戦争継続が困難になり退却していく東晋軍を精鋭で追撃戦を行い東晋軍を殲滅させる

以上のようなものであったと思われます。

前秦軍への援軍要請と、それを受けての前秦朝廷での議論

一方、前燕朝廷は、慕容垂に軍事指揮権を与え桓温に当たらせるとともに、散騎侍郎の楽嵩を使者に立て、虎牢以西の地を割譲することを条件に前秦にも援軍を要求します。

これを受け、前秦皇帝・苻堅は群臣を集め意見を求めます。

前秦の群臣たちは

「以前桓温が我が国に侵攻してきたときに、燕の奴らはまったく我らを救援しようとはしませんでした。今になって、桓温が燕を攻めているからと言って、どうして我らが燕賊どもを助けないといけないのでしょうか。ましてや、あいつらは我らに称藩なんぞしておりませぬし。だれが助けるものですか。」

と、前燕なんぞ見捨ててしまえという意見が体制をしめます。

これを受けて、西の傑物王猛は苻堅様に密かにこのように意見します。

「燕国は強大な国力を持っておりますが、国の全権を握る慕容評は桓温の敵ではありません。もし桓温が山東エリアを抜き、洛陽に進み、幽州・冀州の兵を手に入れ、并州・豫州の食料を手に入れ、崤山、澠河の地まで兵を送り込むことができるようになると、陛下の天下統一の機会は去ってしまうことになります。

今は燕国と力をあわせ、桓温を退却させることが先決です。桓温を退却させれば、燕国はいつもの病、すなわち慕容評の猜疑心による内輪の揉め事が再発すること間違いありませぬ。そうなってから、我らはその燕国の内輪もめを利用し奴らを併呑してやればよいのです。」

さすがは、五胡十六国時代随一の傑物(と私は言いたい)である、王猛の見通しです。

しかも、このときには東晋退却後の前秦による前燕攻撃も頭にあったのではないかと思われるし、王猛の凄みを感じ、空恐ろしくなってきます。

もう一人傑物である苻堅様も、この意見に従います。

8月になって前燕は、苟池と鄧羌の二人の将軍に兵2万を率いせさせ前燕の救援に向かわせます。

上記前秦二将のうちの鄧羌は、前秦随一の猛将で苻堅様の前の代から、前秦の数々の戦いで武功を挙げている人物です。

前秦軍は、洛陽エリアから侵入し、許昌がある潁川郡まで進軍していきます。

慕容垂の出陣

さて、前燕軍司令官となった慕容垂は陣容を整え、弟の征南将軍・慕容徳とともに5万の兵を率い出陣します。

その軍の中には、司徒左長史・申胤、黄門侍郎・封孚、尚書郎・悉羅騰という人物たちも自分のブレーンとして参軍させます。

申胤と封孚の見通し

慕容垂の幕中の申胤と封孚以下のような現状の情勢の分析と見通しを立てます。

●桓温の兵卒は精鋭ぞろいであり、黄河の流れに沿って進軍して来ているのに、その大軍が上陸するのを逡巡し、交戦せずにいる。いったいこれからどうしたいのであろうか?

●桓温のこれまでの成功はその才能によるものであるが、この後の成功はない。
なぜならば、東晋王朝は衰え、ほぼほぼ桓温の専政国家となっている。しかし東晋の朝臣は、全員がこれに同意しているわけではない。桓温が自分の野望をなそうとすれば必ずその事を阻む勢力が出てくるであろう。

●桓温は驕り高ぶり大軍を頼みにし、情勢の変化に応じることをしたくないと思っている。現在、大軍で我が国深くに攻め入っているにもかかわらず、この機会に乗ぜようとせず、逆に黄河の中流あたりでぶらぶらしているのは、まさに、出張らずして利益を得ようとし、持久戦を望もうとし、座ったまま勝利を拾おうとしているからだ。

●なので、もし兵糧が不足する事態に陥れば、情勢はひっくり返り、桓温は必ずや戦わずして敗北するような状態になるはずだ。

慕容垂もこの分析をもとにして戦術を組み立てていったと思われます。

小競り合いによる前燕軍の勝利

桓温は枋頭着陣後、前燕から降伏してきた段思という人物を教導(道案内役)としていました。名前からすると慕容の宿敵段部の出身でしょうか。

悉羅騰は桓温の軍と一戦し、この段思を捕らえます。

また、桓温は元後趙の将・李述に趙・魏の平定を命じます。

資治通鑑には「徇趙魏」とあるのですが、古からの趙魏の地(河北や山西エリアなど)を従わせようとしたのか、最近の後趙・冉魏の地もしくは人を従わせようとしたのか定かではありません。

しかし李術は、前燕の前述、悉羅騰と、虎賁中郎将・染于津に攻められ斬られます。

このように慕容垂統率後の緒戦では前燕軍が勝利し、これにより東晋軍の士気は多いに落ちてしまいます。

そして、さらに慕容垂の反撃一手が繰り出されます。

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