五胡十六国時代 前燕の落日⑰ 四代目慕容暐 ~「枋頭の戦い」その7 見事なる慕容の用兵 ~

枋頭の戦い

こんにちは。

前燕は、総司令官を慕容垂に交代し、桓温率いる東晋軍に反撃を試みます。

慕容垂、およびそのブレーンたちは、東晋軍の弱点が兵站線の細さであると見抜き、その切断を行い、それにより退却する桓温軍に追撃戦で打撃を与えるプランを立てます。

また、前燕朝廷は、前秦に援軍を依頼します。王猛は苻堅様に進言し援軍に応じます。苟池と鄧羌の二将が腹に一物抱えた2万の兵を率い前燕国内に進軍してきます。

一方、慕容垂の部将、悉羅騰の活躍により、緒戦の戦いで勝利をおさめた前燕軍は、本格的な作戦プランの実行を試みます。

桓温の枋頭進出までの進軍路

 

前燕、反撃時の各部隊の位置取り

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前燕軍、本格的な反抗を開始。石門を抑える

9月に入り、前燕の慕容徳の軍1万と、侍御史・劉当の軍5千が石門という地に駐屯します。

この石門という地は今回の戦いのポイントなる場所です。

ここには、東晋が戦争を継続するために必要な兵糧を輸送するための水路上の門があったと思われます。

この石門は譙郡か梁郡にあったというように記述されていますので、おそらくは汴水沿いにあったと思われます。

百度百科の記事を読んでいると、汴水沿いには後漢の時代に黄河から入ってくる水の量を調節するための「石門」が作られたと書いてあり、そのような「石門」が汴水沿いにいくつかあったのではと推測しております。

桓温も石門に袁真の軍を派遣

この石門に関しては、桓温ももちろん重要視していたらしく、枋頭に至る前から配下の袁真に兵を与え、譙郡と梁郡を攻めさせ、石門を開かさせ、水運を通そうとします。

もし「石門」が汴水沿いにあるとするなら、戦いの前に郗愔が献言していたように、浅くなり水運に耐えることができなくなっていた汴水を、「石門」を開くことにより水を通し、兵糧輸送の一旦を担わそうとしたのかもしれません。

しかし、袁真は、譙郡と梁郡を平定することには成功しましたが、「石門」を開くことに失敗してしまいます!

これにより、東晋軍の水運の路はふさがってしまいます。

慕容徳、東晋軍の兵站を断つことに成功する

東晋の袁真が「石門」を開くことに失敗し兵糧輸送の通運が途絶えるとともに、前燕の慕容徳と劉当は総計1万5千の兵で「石門」に駐屯します。

また同時に前燕の豫州刺史・李邽は州兵5千を率い東晋軍の糧道を絶ちにかかります。

慕容の釣り野伏せで東晋軍を撃破

この石門付近での展開中に慕容徳は、慕容宙に1千の兵を与え先鋒とします。

慕容宙は慕容垂の弟の子供になり、後年慕容徳たちとともに、慕容垂の後燕建国に貢献する人物です。

慕容宙は進軍中、東晋軍と遭遇し、ここで一計を案じます。

「晋の兵隊どもは、行動がかるがるしいし、ずっと浮わついており、まるで盗賊のようだ。敵に攻められると怯え、敵が逃げていくと勇んで攻めて来るぞ。餌をまいてこれを釣ってしまおう。」

そして、二百騎に東晋軍を攻めさせ、残りの騎兵は分けて三方に伏せさせました。

東晋軍を攻めた二百騎は交戦せずに逃げ出し、東晋軍は調子に乗って追撃してきます。

そこに伏せていた慕容宙の兵が三方より攻めかけ、東晋軍は散々に破られ、多くの兵が戦死しました。

この慕容宙が取った戦術はまさに「島津の釣り野伏せ」ではないですか。

この釣り野伏せという戦術は、餌となる退却する軍をいかにうまく、わざとらしくなく統率して退かせるかがポイントなのですが、見事にそれをやってのけた慕容宙は優れた将軍であったと思われます。

桓温、退却を始める

枋頭にいる桓温は、

・袁真が石門を開くことに失敗した。

・前燕軍により糧道が断たれた。

・各地での東晋軍の敗退。

・前秦の援軍が来ている

などの報せを聞き、全軍の退却を決定します。

そこで、船を焼き、輜重や武具を廃棄して身軽にし、陸路での退却を選択し退却をはじめます。

大司馬府株式会社のブラック企業ぶりがまたもや炸裂

退却を開始した桓温ですが、ここで部将・毛虎生を東燕等四郡諸軍事に督し、東燕太守にします。

「東燕等四郡諸軍事」ですので、東燕含めた周囲の四郡の軍に関する諸事を行える権限を与えられたということです。

東燕は枋頭から黄河を渡ってすぐの地点にあたり、これは敵中に残ってしんがりを務めることを意味します。

皆さん、毛虎生の名前を覚えていますか?

そうです。この戦いの序盤で、桓温の命令で一ヶ月もない工事期間で巨野三百里(140キロ)を切り開き水路を通す鬼の土木工事を命じられたあの毛虎生です。

戦いの終盤で、再び桓温から無理難題を押し付けられます。

まさにブラック企業・桓温の大司馬府株式会社ここにありです。

まあ、毛虎生がそれだけ優秀な人物だったのかも知れませんが。

譙郡・梁郡での攻防と、桓温の退却開始。

このように、毛虎生を残す手配をし、桓温率いる東晋軍の主力は退却していきます。

そしてここから慕容垂の名将ぶりを発揮する見事なまでの追撃戦がはじまるのです。

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