こんにちは。
枋頭の戦いで東晋の桓温をしりぞけ、前燕の国難を救った慕容垂が、慕容評と太后・可足渾氏の悪徳ゴールデンコンビの魔の手から逃れるために、前秦へ出奔したのが前回まででした。
前燕のかつての都・龍城でほとぼりを冷ますつもりが、息子の裏切りにあい、慕容評の追手から追われ、石虎の葬られた地で呪われたかのように「猟者」500人に襲われるなど、様々な苦難に見舞われながらもなんとか切り抜ける珍道中の末、洛陽で家族や味方と合流して(現正室である太后・可足渾氏の妹の可足渾氏は鄴に置き去りにして)、前秦になんとか逃げ込みます。
そこで、苻堅様のドン引きするほどの大歓迎を受け、今後は前秦の部将の一人として登録が完了しました。(王猛が虎視眈々と陥れようとしていますが)
369年末頃の状勢
枋頭の戦い後の中国は、天下三分の計が如く、三国分立状態です。(北西部にある国は無視する)
南半分に東晋が陣取り、華北の東に前燕、西に前秦が割拠している状態でした。
三國志の時代とは、南北を入れ替えたような感じですね。
東晋の桓温の北伐を前燕が撃退したときも、前秦は援軍を送っており、表向き華北の二国はこの時期友好関係にあったようですが、内実は当然のように違います。
とくに前秦は、苻堅・王猛の「人傑」コンビにより国力的にも上り調子であり、密かに前燕併呑を企んでおりました。
ただ、前燕も華北東部を制する強国で優秀な人材がたくさんおります。この前秦の企みに気付いて警鐘を鳴らす者もおりましたが、その情報に関して前燕の時の権力者たちが対処できるかはまた別の話です。
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五胡十六国時代を描いた小説。前燕の慕容垂、慕容徳、慕容評も出てくるぞ↓↓
給事黄門侍郎・梁琛の分析
369年の末、前燕の使者として前秦に滞在していた給事黄門侍郎・梁琛が帰国して前燕の都・鄴に到着しました。
この梁琛という人物は、前秦滞在中に苻堅様が一国の使者である梁琛に礼を失する振る舞いをしたときに、どうどうと苻堅様に説教をして、行いを改めさせることをしたりと、なかなかの気骨のある士であります。
ちょうどこの頃、慕容垂が出奔したころで、梁琛は入れ替わりで戻ってきた感じです。
梁琛はさっそく慕容評に、前秦滞在中に手に入れた情報を伝えます。(使者としての役割だけでなく、当然のように情報収集もしていたでしょう。)
「秦のやつらは、日々軍を閲兵しており、多くの糧食を陝東の地に集めております。(陝東は、陝県の東ということでしょう。陝県は今の三門峡市で、函谷関もこの地にあります。前燕と前秦の国境に近い両国の最前線と言ってもよい地です。)
私がこれを分析するに、両国の友好はそう遠くない日に終わりを告げるでしょう。また最近呉王(慕容垂)が秦に帰順してしまいました。秦は必ずや我ら燕の隙きを伺おうと謀略を巡らせているに違いありません。早急に我らも手を打つ必要があります。」
これに関して、慕容評は
「前秦が、裏切り者の慕容垂なぞの意見を聞いて我らとの友好関係を破ることなどあろうはずがあるまい。ひょっ、ひょっ。」と聞く耳をもちません。
梁琛は、前秦にしばらく滞在して彼の国の思惑を肌に感じています。
この慕容評の甘い見通しはまずいと思い、さらに話を続けます。
「今、燕と秦の二国は中原を二分しております。桓温が攻めてきたとき、秦は我らに援軍を差し向けましたが、これは燕国を愛しているが故ではありません。もし燕に隙きができれば、元々の中原制覇の志を忘れずに攻め込んで来ましょうぞ。」
ここまで言われて慕容評は一応梁琛に質問してみます。
「ひょっ、秦主(苻堅様)は、どのような人物ぞ?」
梁琛曰く、「よく物事が見えて、優れた決断力を持っています。」
また、王猛についても質問します。
梁琛曰く、「その名に偽りはありません。」
このように必死に前秦の危険性を説明しますが、慕容評は一向に今の状況を理解しようとしません。
そこで、梁琛は直接皇帝・慕容暐にも説明しますが、こちらも「僕よくわかんない」状態です。
慕容暐はこのころは20歳くらいになっています。もはや「幼沖(いとけない。幼い)」と評される年齢でもないのですが、教育が悪かったのか、母親が悪かったのか、今の状況がわからないようです。
(慕容暐は、時と場合によってはよい言動をするのですが、このときはだめでした。)
さて、実質的なトップの慕容評と、名目上のトップの慕容暐のどちらにも、現状の危うさを理解してもらえなかった梁琛ですが、このままでは大変まずいと思い、前燕が誇る名将の一人、皇甫真に話をします。
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