こんにちは。
慕容垂の出奔シリーズも今回が最終回です。
慕容評と太后・可足渾氏による誅殺から逃れるために、流亡の道を選んだ慕容垂は、いろいろといい子ちゃんぶり、日和ったせいで、天からこれ見よがしに七難八苦を与えられながらも、なんとか前秦への入国を果たし、長安にたどり着き、前秦皇帝・苻堅様に面会をします。
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五胡十六国時代を描いた小説。前燕の慕容垂、慕容徳、慕容評も出てくるぞ↓↓
苻堅様、大いに喜ぶ
前燕から慕容垂が降って来たと聞いた苻堅様は、それはもう大変な喜びようでありました。
苻堅様はかつて、前燕の華北東部征服の立役者にして、柱石中の柱石の慕容恪が没したときに、一度前燕侵略を企てました。
ただしこのときには、慕容恪無くとも、前燕には慕容垂がいるという分析の元、この前燕侵略の計画を断念しておりました。
前燕の先代・慕容儁には疎まれており、慕容恪ほどの派手な成果を挙げてはいなかった慕容垂ですが(ただし前燕の様々な戦いで戦果を挙げており、けっして戦功がなかったわけではない。また慕容恪が実権を握っていたころは、信頼され多くの功を挙げていた。)、その威名は前秦にも轟いておりました。
これから、もし前燕と事を構えることになったときに、その一番の障害となりうる慕容垂が何もせずとも降ってきたというのですから、苻堅に取っては大幸運というべき事態だったでしょう。
スラムダンクで言う、桜木花道がオフェンスリバンドを1本取ることによって、敵の反撃をふさぎ、味方の攻撃チャンスが1回増えるという、まさに4点分の働き、的な出来事だったのです。
苻堅様の厚遇
苻堅様は、長安郊外まで慕容垂を迎えにいき、その手をとり喜びの言葉を述べられます。
「天は朕や卿のような賢傑を生んだ。我々は必ず一緒に大きな功績を残すことができるであろう。これは、自然の理である。
卿と一緒に天下を定めることができたなら、泰山にそのことを申し上げ、そのあと、卿を故郷である遼西・遼東エリアに還し、代々幽州を治めさせよう。そうすれば、卿が本国を去ったことにより子の孝を失うことをせずに済むし、君主への忠を失わずに朕に使えることができよう。おお!なんと美しいことだ!」
慕容垂という天下の傑物が自分のところに転がり込んできたのですから、興奮するのはわかりますが、自己陶酔しすぎて、酔っぱらっているのではないかと思うくらいのお言葉です。
これを聞いて、歓迎を感謝しながらもちょっと引き気味な慕容垂の姿が思い浮かぶようです。
慕容垂はこう答えます。
「私は故郷を離れさまよう流亡の身であります。罪を免れるだけでも幸いなのであります。本邦(遼西・遼東)での栄は望んでおりません。」
苻堅様はまた慕容垂の息子・慕容令や、慕容恪の息子で慕容垂と一緒に前秦に来た慕容楷の才能も愛しました。
全員を厚く遇し、巨万の富を与え、常に注目して見ていたといいます。
慕容垂一行という才能集団にのぼせ上がる苻堅様が見て取れます。
前秦の民衆も慕容垂を歓迎する
また、関中の民(前秦の民衆。前秦の首都長安は関中という土地にあった。関中は東の函谷関、西の隴関・大散関、北の蕭関、南の武関に囲まれた地という意味。諸説あり)ははじめから慕容垂の勇名を聞いていたので、みんな慕容垂のことを歓迎しました。
サッカーなどでライバルチームのスーパーエースがわがチームに移籍してきた(しかも移籍金なしで)ようなものですね。
怪物・王猛の冷徹な目が光る
さて、皇帝以下国中が慕容垂ブームに湧く前秦でしたが、ここに一人周囲の熱狂に乗らず、冷徹な目で慕容垂を見る人物がいました。
そう、前秦の政治・軍事をその恐るべき才能で支え、おそらくは五胡十六国時代最大の傑物である怪物王猛です。
彼は、慕容垂のほとばしる才能を前秦にとって驚異になると見抜き、苻堅様に進言します。
「慕容垂親子は、まさに竜虎のようです。これを飼いならすことはできませぬぞ。もし世が風雲急を告げたときには、制することはできないであろう。早めに除いたほうがよい。」
しかし、慕容垂を手に入れてうれしくてたまらない苻堅様はこの意見には従いません。
「私は今天下の英雄を集め四海を平定しようとしておる。どうして慕容垂を殺さなければならないのだ!また、その試みは始まってばかりであり、私は慕容垂を誠意を持って遇したばかりだ。匹夫でさえも約束を守るというのに、天子が守らないわけにはいかないではないか!」
として、慕容垂を冠軍将軍に任命して重用する構えをみせます。
このたびの王猛の進言は容れられませんでしたが、のちの歴史の展開を見ると、王猛の予測は恐ろしいばかりに当たります。
淝水の戦いの大敗戦が引き金とは言え、慕容垂は龍となり華北東部に燕国を復興させるのです。
そのことが見通せている王猛は慕容垂を除くための策略を張り巡らせていき、王猛の魔の手は慕容垂を襲いますが、そのことはもう少し先の話です。
慕容垂出奔後の前燕国内
さて、慕容垂出奔後の前燕ですが、慕容垂と親しかった、慕容徳や高泰などが官を免じられたりします。
ちなみに、その後高泰は申紹の進言により、尚書郎として復帰します。
このように、邪魔者がいなくなったことにより慕容評と太后・可足渾氏の悪徳ゴールデンコンビが冴え渡り、ますますやりたい放題になります。
そしてやることなすことすべて悪手を打ち、前秦による前燕侵攻を招きます。
それについては次回から書こうと思います。
前燕の滅亡へのカウントダウンがはじまります。
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