こんにちは。
慕容垂が出奔する前後、前秦では前燕への攻撃準備と思われる怪しい動きがポツポツ出始めています。
表面上は、友好国として南の東晋に一緒に当たりましょう~的な関係で、東晋の桓温が第三次北伐の軍を発し前燕に攻め込んだときも(枋頭の戦い)、前秦は前燕に援軍を送り退却する東晋軍に止めをさしたりする動きを見せたりするのですが、前秦のタクトを握るのは、あの怪物・王猛です。
先の、枋頭の戦い時の前燕への援軍を含め、前燕攻略のための様々な布石を打っていたと思われます。
ただ、前燕にも有能な士はたくさんおり、前秦の怪しい動きに警鐘を鳴らしていましたが、前燕の全権を握る慕容評は、このような警鐘にまったく注意を払いません。
前秦に使者として赴き、しばらく前秦に滞在していた梁琛が前秦の危険な動きを慕容評や皇帝・慕容暐に報告しますが、歯牙にも掛けられませんでした。
そこで、梁琛は、前燕の誇る名将の一人、皇甫真に相談します。
皇甫真も前秦の動きは危険だと判断し、皇帝・慕容暐に直接上疏を行います。
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名将・皇甫真
皇甫真は、慕容廆の時代から四代にわたり前燕に仕えた前燕屈指の将軍です。前燕の様々な戦いで活躍をした名将であり、また将軍としてだけでなく、前燕国内の都市を治めるのにも実績を上げている文武両道の人物です。
その実績を簡単に挙げてみるだけでも下記のようになります。
・慕容皝時代、後趙軍の侵攻を慕容恪とともに打ち破った。
・慕容儁時代、慕容恪、封奕とともに、冉閔討伐で活躍。
・冉魏の都・鄴攻略時に活躍。
・慕容暐即位後の慕輿根の野望に対して、傅顔とともに動き、慕輿根を捕獲
・前燕の華北攻略時に、野王の「老賊」呂護討伐で活躍
また、鄴攻略時には、鄴に蓄えられた金銀財宝には目もくれず、人心を収めることに力を注ぎ、図書や典籍を手中に収めるという、漢の名臣・蕭何のようなことをやっています。
慕容暐に直訴
そのような、文武両道の実績をもつ名将皇甫真ですので、今の前燕の置かれている状況を大いに憂慮し、皇帝・慕容暐への直訴を試みます。
「苻堅とは、お互いに贈り物を携え使者を往来させておりますが、苻堅がそれを行っているのは、我が国の内情を探るためであります。けっして道徳心が溢れているわけではなく、互いの国が他人同士であることを忘れてはなりません。
以前の枋頭の戦役時も、奴らは、我が国の援軍として洛陽方面に出兵してきて、その後も使者が往来しましたが、これは我が国の守りの固い部分や弱い部分を把握しようとしているからです。
さらに、今呉王(慕容垂)が前秦に帰順してしまい、やつらの某主となっております。まさに「伍員の禍」に備えなければなりません。
(伍員は春秋時代の人物・伍子胥のことで、伍子胥が楚を去って呉に亡命し、後に呉の兵によって、楚に復讐をしたことを言う)
洛陽、太原、壷関の要所に兵を増員し、秦の侵攻に備えるべきです。」
ちなみに、皇甫真が防備を固めることを進言した洛陽、太原、壷関ですが、このあと現実のものになった、前秦の攻撃で、まさにこの3つの地点がまず攻められます。
皇甫真の眼は確かなものだったことが皮肉にも証明されてしまいます。
慕容暐、慕容評に相談するも・・
これを聞いた慕容暐はすぐ慕容評を呼び、皇甫真の上疏について検討させます。
すぐ信頼できる臣を呼び事を図る行動は良かったのですが、信頼できる臣が慕容評であったのが、慕容暐の運の悪いところです。
慕容評はこう言います。
「秦なぞは非力で、常に我が国の助けを頼りにしている奴らですぞ。
さらに苻堅という坊やは、世の中を正しい道に導こうとすることを生きがいとしているような中二病全開の自己陶酔野郎ですぞ。
慕容垂のような叛臣の言葉を受け入れて、秦と燕の友好を破るわけないではないですか。軽々しく騒いでは、返って秦のやつらの疑惑を深めることになりましょうぞ。ひょっ、ひょっ、ひょっ。」
そしてついに、国として前秦に備えることをしませんでした。
まさに国が滅びる手本のような対応です。
トップがこのようなありさまですから、前秦国内の政治はどんどん乱れていっておりました。
次回はそのような前秦国内の乱れを、申紹という前燕の文官の上疏から分析したいと思います。
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