五胡十六国時代 前燕の落日⑬ 四代目慕容暐 ~「枋頭の戦い」その3 桓温、水路を使い北上~

枋頭の戦い

こんにちは。

桓温は、369年、江州刺史・桓沖、豫州刺史・袁眞などを率い5万の兵で前燕に侵攻します。

以前、この戦いのポイントとして、

①水路

②兵站

③追撃戦(前燕から見て)

を、挙げましたが、

桓温が進撃していくときのポイントしては、水路と兵站が重要となってきます。桓温は、徐州から河川を輸送路、進軍路として使用しながら北上して黄河に出るプランを考えていたようです。

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戦争前の勢力地図:369年頃

戦場となった地域の拡大地図

汴水を使用しての輸送

さて、北伐をはじめるにあたって、桓温の参謀・郗超は、桓温に進言します。

それは、汴水が水深が浅く、これを使用しての食料輸送は非常に困難であるということでした。

汴水は黄河流域の滎陽あたりから、今の開封市(当時の陳留の近く)近郊を経て、徐州まで流れ泗水に合流する川で、戦国時代あたりから元の河川に手を加え中国の大事な輸送路として重要視されていた川でした。

後漢の時代には、石の堤を作って川のまわりの堤防を補強したり、石門という水門を作り、黄河から引き入れる水の量を調整したりもしていたそうです。

その汴水は、369年のころには長年の戦乱でろくに整備もされずにいたので川底に泥がたまり、船での輸送に使用するには難しい状況だったようです。

ちなみに今の開封あたりを南北朝時代から五代時代にかけて汴州と呼ぶのは、汴水がこのあたりを通っていたからです。

桓温は、この郗超の進言に従いませんでした。この後も基本、黄河に出るまでの進軍と輸送を水路を使用していきます。

桓温、泗水沿いを北上し、済水を目指す

6月、桓温は、徐州から進発し泗水沿いを北上していきます。(史書には徐州から軍を発したなどとは書いていませんが、郗超が汴水の漕運に言及しているのと、実際に桓温が泗水沿いを進んでいって済水に入るのを見ると徐州から進発したとしてよいと思います。)

泗水沿いを進んでいき、湖陸を攻めます。ここは前燕の寧東将軍・慕容忠が駐屯していましたが、桓温は建威将軍・檀玄を派遣して、慕容忠を打ち破ります。湖陸を抜いた桓温は金郷というところまで軍を進めます。

ちなみに、このブログでは基本は資治通鑑に記述されている時系列に沿って「枋頭の戦い」を書こうと思っているのですが、資治通鑑では、桓温が金郷まで進軍したあとに、湖陸での戦いが記述されています。しかし、晋書の桓温伝では、湖陸で慕容沖を破ったあと、「金郷まで軍を進めた。」と記述されています。

はじめに資治通鑑と晋書を読んだときは「どっちやねん」と思いましたが、地図を見て、泗水沿いに進み済水に入っていくことを考えると、湖陸→金郷としてほうがスムーズだと思えるので、そのようにしています。

桓温、鉅野三百里を切り開き水路を通し済水に入る

さて、湖陸で慕容忠率いる前燕軍を撃破し、金郷まで進んできた桓温ですが、ここで思わぬトラブルに巻き込まれます。

日照りにより水が干上がり、水路がこの地点で途切れていたのです。

おそらく桓温は、汴水の水運が満足に使えないのを見て、泗水から菏水を経て済水に入り、済水にをさかのぼり、黄河に入っていくプランを立てたのではないかと思います。水路を利用しての輸送をメインにすることは変更しません。

そこで、桓温は冠軍将軍の毛虎生に命じて、巨野澤から済水が流れ出る地点(汶水という川が済水に流れ込む地点)から三百里の大地を切り開いて水路を通し、干上がった水路が輸送路として使用できるようにします。
※この水路は桓公瀆(とく)とよばれるようになります。瀆(とく)はみぞの意味です。地図の桓公瀆は唐代の地図に「桓水」と呼ばれる川があるので、その川の流路を元に線を引きました。

三百里というと、120~130キロ程度なので、ものすごい距離を土木工事しております。毛虎生は相当苦労したのではないでしょうか。それも6月内の出来事なので、月内に130キロ掘らされるというブラック企業なみの使われ方です。

この巨野澤という湖は地図で見てもわかるとおり、かなり大きな湖で黄河から流れてきた済水が流れ込みまた流れ出す湖です。この巨野澤が時代を下ると梁山湖と呼ばれるようになり、有名な梁山泊の108人の英雄が集まる水滸伝の舞台となります。(湖の位置はこの当時から少しずれるようです)

桓温は、このように、水路を途切れたところをつなぎ、東晋軍は済水に入ります。そして済水を進み黄河に入っていくのですが、前燕も指を加えて見ているわけではありません。迎撃の軍を発します。

序盤の桓温の進軍路

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【参考文献】
三崎良章『五胡十六国、中国史上の民族大移動』【新訂版】(東方書店、2012年10月)

川勝義雄『魏晋南北朝(講談社学術文庫)』(講談社、2003年5月)
『晋書』『資治通鑑』

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