こんにちは。
当時の中華随一と言っても過言ではない名将・桓温率いる東晋軍の前に、前燕は繰り出す軍を次々と打ち破られます。
慕容忠、慕容厲、傅顔、慕容臧と4タコです。(傅顔は、東晋別働隊の鄧遐&朱序の軍に敗れた)
桓温は済水沿いを水軍の艦隊を連ね、黄河に入ります。
五胡十六国時代を含む、魏晋南北朝時代のおおまかな流れはこちら
五胡十六国時代を描いた小説。前燕の慕容垂、慕容徳、慕容評も出てくるぞ↓↓
桓温、枋頭に着陣する
桓温は7月に武陽という地に駐屯します。
そのタイミングで、前燕の兗州刺史・孫元が自分の族党たちを率いて前燕を裏切り桓温に応じます。
そのあと、桓温は枋頭の地に着陣します。
武陽の謎
桓温が枋頭に着陣する前に駐屯した武陽の地は、資治通鑑の胡三省の注によると、漢代の東郡、魏晋の陽平郡にあたります。地図でみるとわかるのですが、済水から黄河に出る地点の滎陽や、このあと桓温が着陣する枋頭から見ると、黄河のめちゃくちゃ下流にあたります。
資治通鑑の記述をそのまま鵜呑みにすると、済水をさかのぼって黄河に出た桓温が、黄河を何百キロも下って行き武陽に着陣して、そのあとまた黄河をさかのぼって枋頭に着陣するという謎の行動に出ています。
もしかしたら、資治通鑑に書いてある「舳艫数百里」(へさきと、ともとがふれ合って、多くの船が数百里も長く連なり続くこと)の大艦隊を率いてヒャッハー!と黄河を往復して、前燕に対して示威行動に出たのかと思いましたが、ただでさえ兵糧に不安を抱える東晋軍がそんな無駄をしそうにはありません。
ここからは、あくまで推測なのですが、武陽は、桓温が進出してきた、巨野沢のあたりからは、直線距離だとそんなに遠くは無さそうです。(あくまで済水さかのぼってから黄河に入った上で到達するのにくらべたらです。)
例えば、巨野沢あたりから、桓温は済水沿いを上って進む本隊とともに、別働隊を巨野沢から北に進軍させ(巨野沢から北に流れ出す済水沿いを進むことも含め)、黄河に入り武陽に入るなんてこともなかったのかなと想像してみました。
桓温の第三次北伐の10年前、東晋のアンダードッグ(噛ませ犬)、泰山太守・諸葛攸が359年に北伐したときに、泰山郡から水陸3万の兵を率いて、「石門」という、巨野沢から北に流れ出た済水沿いにある地点から侵入し、黄河の島に出て駐屯した、とあります。(この「石門」はこのあと出てくる石門とは別物です。)
なので、巨野沢から北の済水から黄河に出るルートはあったのだろうと思い別働隊が、武陽に出たあと、黄河をさかのぼって枋頭で桓温に合流するというのもおもしろそうだと思いました。その道程で前述の孫元が一族を挙げて呼応してくるとかですね。
桓温本軍は済水沿いを進み、鄧遐&朱序の別働隊は河南エリアの制圧、もう一つの武陽へ出る別働隊は、巨野沢の北の東平、斉北エリアを制圧しつつ黄河に出るなどのプランだとおもしろいなと思いました。
まあ、兵力の分散になるので、推測の域をでませんが。(今回の北伐は5万の兵力なので)
ちなみに10年前に北伐した諸葛攸は慕容評と傅顔の率いる5万の前燕軍に東阿の地で敗れ、諸葛攸の北伐は見事に失敗に終わります。
前燕朝廷の狼狽
さて、桓温が前燕軍を撃破しつつ、黄河に進出し枋頭の地まで到達したことを聞いた前燕の朝廷は恐慌状態に陥ります。
枋頭は地図で見るとわかるように、黄河を北にすでにわたった地点になり、しかも前燕の首都・鄴へ向かって平原が続き大きな障害物などない場所になります。(ある程度の河川などはあったのでしょうが)
皇帝・慕容暐とその補佐役の太傅・慕容評は、東晋軍迫るの報を聞き、大いに恐れ、龍城への逃走を本気で考えます。
龍城は前燕の元の首都です。今の遼寧省朝陽市にあたり、前燕が華北進出前まで本拠地にしてみました。はるか東北エリアへの首都移転になりますので、前燕朝廷の狼狽ぶりが見て取れます。
しかし、そこへ待ったをかけたのが、慕容儁、慕容恪の弟、呉王・慕容垂でした。
慕容魂を引っさげて、慕容垂出馬す
慕容垂はこう言いはなちます。
「私が迎え撃ちます。もし私が負けたならば、そこではじめて逃げても遅くはないでしょう」
かっこいいですねー。勝利に対しての自信がうかがえます。
さすが、このあとやぶれてもやぶれても新しい国を建国していく不屈の慕容魂がうかがえます。(前燕のあと、後燕、西燕、南燕、北燕という国がニョキニョキ建てられます。ただし北燕は鮮卑化した漢族の馮跋により建国)
慕容魂(B-SOUL)を体現する男たちの反撃がはじまります。
【参考文献】
三崎良章『五胡十六国、中国史上の民族大移動』【新訂版】(東方書店、2012年10月)
川勝義雄『魏晋南北朝(講談社学術文庫)』(講談社、2003年5月)
『晋書』『資治通鑑』
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