五胡十六国時代 前燕の落日㉞ 四代目慕容暐 ~前燕滅亡への道~ 前秦の前燕への侵攻:「潞川の戦い」前のショートコント

中国史

こんにちは。

王猛は、壺関をまたたく間に落とし、返す刀で攻略に苦戦していた晋陽に向かいます。

楊安率いる前秦軍の攻撃に頑強に抵抗していた晋陽も、王猛の地下道を掘り城内に侵入するという策により、あっという間に陥落してしまいました。

こうして、前燕の并州の二大重要拠点は前秦のものになりました。

壺関のある上党郡、晋陽がある太原郡は、それぞれ、太行八陘という太行山脈を抜ける路を使い前燕の首都・鄴がある華北平原に向かうことができる交通の要所です。

現在の、山西省と、華北平原にある河北省の境は太行山脈が壁のようにそびえ立ち、その交通を遮っているのですが、前述太行八陘という八本の路で古来から行き来できたのです。

ちなみに「陘」という漢字は、漢字源を引くと

山脈が中断した所。山なみを断ち切ったがけ。

という意味だそうです。

太行八陘も太行山脈内に存在する切り立った崖を通路として利用していたのでしょう。

さて、前秦軍が壺関、晋陽を攻略したあと、慕容評率いる前燕軍30万がようやく、壺関がある上党郡に進出してきます。上党郡は現在の山西省・長治盆地があるエリアにあたります。

慕容評は王猛の晋陽攻略の報を聞き、恐れをいだき潞川という川のラインに兵をとどめ、それ以上の進軍をやめました。

そして、10月、前秦軍の到達を聞いた王猛は晋陽から兵を返し、潞川まで進行し、潞川をはさんで前燕軍と対峙しました。

ここから前秦軍と前燕軍の主力同士の対戦、「潞川の戦い」がはじまります。

 

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王猛と鄧羌のショートコント①

さて、潞川をはさんで対峙する前秦軍と前燕軍ですが、戦い前に、前秦軍内である出来事がおきます。

王猛は、将軍の徐成を派遣して、前燕軍の陣形や弱点などを調べようとしました。

期限を昼間までにしていたのですが、夕暮れになっても徐成は戻ってきませんでした。

王猛はこれに怒り、軍法に照らして徐成を斬ろうとしました。

そこで、将軍の鄧羌は王猛を諌めようとします。

「今、賊ども(前燕軍)は兵数が多く、我らは寡兵です。早朝には戦がはじまります。徐成は将の一人です。しばしの間、罪に問わずにいたほうがよいでしょう。」

しかし王猛はこう答えます。

「いや、徐成を処断しなければ、軍法がなりたたぬ」

鄧羌も引かずに言います。

「徐成は私と同郷の将軍です。期を違えたというのは斬罪に値しますが、私は次の戦で徐成とともに功を立てようと思っております。願わくは、その戦功により徐成を許していただけないだろうか。」

王猛はそれでも許そうとしませんでした。

鄧羌はブチ切れて、自分の陣に戻り、兵を率いてなんと王猛を攻めようとしました。

王猛は、すぐに駆けつけ、その理由を聞くと鄧羌は答えます。

「おら、この頑固クソジジイ。儂は詔を受けて、遠賊(前燕)どもを討とうとやってきたのじゃ。そうするとどうじゃ。すぐ近くに賊(王猛のこと)がおり、自分の味方を殺そうとしておる。なので、儂はその近くの賊を先に除こうと思ったんじゃい。」

すると王猛は鄧羌の義侠と勇気をたたえ言います。

「将軍よ。もう止めるとよかろう。儂は、徐成を許そうと思う。」

そうして、徐成は罪を許され、鄧羌は王猛に謝しました。

王猛は鄧羌の手を取って言います。

「儂は将軍(鄧羌)を試そうとしたのだ。将軍は同郷の将のことでさえ、そのように大事にしておる。ましてや国家に対しては比類なき忠誠を誓ってくれるだろう。将軍がいてくれるので、儂はこのあと、賊(前燕)どもに対して憂うことなどは何もないだろう。」

こうして一件落着となりました。

が、王猛けっこう焦ったんじゃないかと思いました。

「え、こいつマジで?マジで儂を攻めようとしてるの?やべえやべえ、ここは鄧羌の訴え聞いて、こやつを試したことにして、事を治めておこう。いやマジ焦ったわ。」

とか思ってたのではないかと思いました。

いや、さすがにいきなり軍中で反乱起こすとはさすがの王猛も思わなかったでしょうよ。

まあ、これが前秦軍最強の武将とも言われる鄧羌の魅力でもあるでしょう。

こうして王猛vs鄧羌のショートコント(その1)は終わりました。

次回から、「潞川の戦い」本編に入ります。(思ったよりショートコントが長かった)(汗)

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