五胡十六国時代 前燕の落日③ 四代目慕容暐 ~慕輿根を誅殺し、慕容恪体制固まる~

慕容恪時代

こんにちは。

前燕の三代目慕容儁が360年に死去し、4代目の慕容暐が即位しました。

慕容儁の時代に、前燕は遼東・遼西エリアより中原に大侵攻を開始し、華北東部の大部分に覇を唱えるまでに勢力を築きました。

しかしその支配はまだ不安定な状況であり、鄴などは手に入れていたものの、洛陽などの河南エリアの制圧もまだまだ未完成でした。

前燕は慕容暐がまだ幼かったところから、慕容儁の弟(慕容暐の叔父)で、史上、名将の呼び声高い慕容恪が実権を握り、侵攻戦を継続していきます。

ただその前に一波乱ありました。

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慕容暐

慕容暐は、字を景茂といい、慕容儁の第三子でした。慕容儁時代に皇太子であった慕容曄が若くして亡くなったため、皇太子に立てられました。

慕容暐は、「庸弱」であったと晋書にはあります。「庸弱」とは、辞書を引くと「平凡(おろか)で(権力・知力などが)弱いこと。」「とりたててとりえがなく、意気地がない。」などとあります。

散々な言われようですが、即位したときが10歳前後であったので、「庸弱」であるのはしょうがないのではないかと同情してしまいますが、一国の皇帝にでもなればそうはいきません。

しかも、もともとが力あるものがリーダーになる鮮卑慕容部の国・前燕であればしょうがありません。

実際、慕容儁が亡くなったあと、群臣たちは慕容恪に跡をついで欲しいと願ったようなのですが、慕容恪は「我が国には皇太子がおられる。その状態で私が即位するのは、私の主義ではない。」と断固拒否し、無事慕容暐が即位しました。

「建煕」に改元し、母親の可足渾氏を皇太后にして、慕容恪を太宰・録尚書事、慕容評を太傅、慕輿根を太師、慕容垂を河南大都督・征南将軍・兗州牧・荊州刺史などに任命して体制を固めました。

慕輿根、実権を握ろうと画策す

先に書いたように、慕容暐が幼くて庸弱であったため、国の実権は慕容恪が握りました。

それに慕輿根という人物が不満を持っていました。

慕容暐即位時には、五胡十六国名物の兄弟間の殺し合いはなかったですが、君主が幼かったことから、実権をだれが握るかの争いは勃発しました。

慕輿根は、慕容恪、慕容評とともに慕容儁死後の前燕の国政を預かった一人です。

「ボヨコン」という読みのように、慕容(ボヨウ)氏と慕輿(ボヨ)氏は同一であるとか、同じ部族内の異なる氏族であるとか言われています。

慕輿根は、勇将であり、慕容皝の時代から数々の戦いで戦功を挙げた武将でありました。

慕輿根は、自らの昔の勲功を誇り、驕り高ぶり、目上の人間をないがしろにしがちの人物であったようです。

慕容恪の権力を妬み、すきを見て国政を乱そうと考えます。

慕輿根、慕容恪をそそのかそうとするも一蹴される

そこでまず慕容恪に、皇帝陛下は幼いからあなたが皇帝を廃してみずから即位したらどうか、と言います。

これを聞いた慕容恪はこう答えます。

「お前は酔っ払っておるのか?このたわけが!。私は先帝から遺命を受けた身である。どうして国を自分のものにできようか。お前は先帝の言葉を忘れたのか?!」

と、痛烈な反論をくらいます。

これを聞いた慕輿根は恥じ入り退散します。

慕容恪は、慕容垂の慕輿根のことを話します。慕容垂は慕輿根を誅殺することを勧めますが、慕容恪は、

「今新しく凶事があれば、東晋や前秦は我が国のすきを突いて来よう。先帝の墓もまだできてないのに、国政をまかされたもの同士が自ら殺し合うのは、各方面の望みに背く恐れがある。しばらくは耐え忍ぶのだ。」

と言い、このタイミングで慕輿根を討つことはありませんでした。

慕輿根、慕容暐と可足渾氏をそそのかそうとするも逆に疑われる

さて、慕輿根は慕輿干という人物と組んで、引き続き慕容恪と慕容評を密かに謀殺しようと動きます。

慕容恪を動かすのを失敗したので、今度は慕容暐と、その母の可足渾氏にささやきます。

「慕容恪と慕容評は反乱を起こそうとしています。私は宮中の禁兵を率いて二名を討ちたいと思います。それによって社稷を安定させますぞ(ドヤ顔)」

これを聞いた可足渾氏は従おうとしますが、慕容暐は可足渾氏に言い放ちます。

「二公(慕容恪と慕容評)は国家の柱石です。先帝が私に託してくれた人物です。反乱など起こすはずがありません。太師(慕輿根)こそ反乱を企てているのではありませんか?」

これを聞くと、慕容暐は庸弱どころか幼いのに英明なやつなのではないかと思います。

慕輿根、あっさりと処断される

そんなこんなで、慕容暐は、もはや事態をほっておけないと考えた慕容恪と慕容評の献言もあり、侍中の皇甫真と護軍の傅顔を派遣して慕輿根を捕らえ、禁中にて斬首しました。

このあと、国内に大赦を発しているので、めでたいことだったのでしょうか。

これにより、慕容恪体制が固まり、河南侵攻戦を進めていきます。

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【参考文献】
三崎良章『五胡十六国、中国史上の民族大移動』【新訂版】(東方書店、2012年10月)
川勝義雄『魏晋南北朝(講談社学術文庫)』(講談社、2003年5月)
『晋書』

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